金沢おでんとは?基本から理解する
寒い季節になると、金沢の街角から立ち上る湯気と美味しそうな香りに誘われて、多くの人がおでん屋の暖簾をくぐります。
石川県は人口ひとりあたりのおでん店の軒数が全国トップクラスで、おでんの消費量が日本一と言われています。しかし、地元の人たちにとって「金沢おでん」という呼び方は、実は比較的新しいものなのです。
個人的な経験では、金沢のおでん文化の豊かさは、単に量だけでなく、その多様性と独自性にあると感じています。一年を通して楽しめる季節感あふれる具材と、各店が守り続ける秘伝の出汁が、この地方独特のおでん文化を育んできました。
この記事で学べること
- 金沢おでんの定義は「地元食材の使用」と「年中提供」の2つだけという意外な事実
- カニ面は11月6日〜12月29日の限定期間でも天候次第で食べられない日があること
- 車麩と源助大根が金沢おでんの出汁の美味しさを最も実感できる具材である理由
- 老舗店では1つの鍋で50種類以上のおでん種を提供している驚きの事実
- 毎月22日が「金沢市民おでんの日」に制定されている地域密着の現実
金沢おでんを定義する2つの条件
「金沢おでん老舗50年会」によると、金沢おでんの定義は「①おでん種に地元・金沢の食材を使っていること」「②1年を通して食べられること」という、実にシンプルなものです。
これまでの取り組みで感じているのは、この定義の柔軟性が金沢おでんの多様性を生み出している点です。出汁の作り方も具材の組み合わせも、各店の個性に委ねられているため、同じ「金沢おでん」でも店ごとに全く違う味わいが楽しめます。
季節を問わずいつでも食べられて、金沢ゆかりのおでん種があれば、それが金沢おでんなのです。
金沢おでん特有の魅力的な具材たち
冬の王様:カニ面(かにめん)
「菊一」で冬の短い時期だけ味わえる逸品が「カニ面」。お店の初代が考案し今では金沢おでんの名物となりました。香箱ガニは、底びき網で漁獲されますが、石川県では資源保護の観点から漁期が限られており、11月6日に解禁、12月29日が終期としています。
経験上、カニ面は金沢おでんの中でも特に手間暇がかかる一品で、一つ一つ捌くのに手間がかかり、漁が解禁される冬の期間だけ提供されるため、金沢おでんの中でも貴重で贅沢な一品です。
初めてカニ面を注文した時の驚きは今でも忘れられません。香箱ガニの甲羅にぎっしりと詰められた身、内子、外子、そしてカニ味噌が一度に味わえる贅沢さは、まさに金沢の冬を代表する味でした。食べ終わった後の甲羅酒も格別で、これ一つで金沢おでんの魅力を存分に感じることができました。
出汁を最大限に楽しむ:車麩(くるまふ)
車麩は、大きな丸い形をしたお麩で、ドーナツのように真ん中に穴が空いており、まさに車輪のような見た目をしているのが特徴です。この車麩が一番、金沢おでんの命である出汁を吸って先ず旨味を感じれる一品となります。
車麩は金沢おでんの出汁の美味しさを測るバロメーターのような存在です。
プリプリ食感が魅力:バイ貝
金沢の「バイ貝」は標準和名を「エッチュウバイ」と言います。弾力のある食感と独特の甘みが特徴で、おでんの出し汁とよく合います。バイ貝の身を食べたあとは殻の中に溜まった出汁を飲んでみてください。バイ貝の濃厚な旨みが出汁と合わさり最高の味わいを楽しめます。
加賀野菜の代表:源助大根
源助大根は、金沢地方特有の大根で、加賀野菜の1つです。肉質が普通の大根と比べて柔らかく、煮込むことで特有の甘みと柔らかさが引き立ちます。
店ごとに異なる出汁の魅力
金沢おでんの出汁は、その特徴的な風味と深い味わいが魅力です。主に昆布、鰹節、煮干しなどから取られる出汁は、ほのかに甘く、優しい味わいが特徴です。
個人的には、特に金沢の大野醤油を使用することで、出汁にほどよい甘さとコクが加わり、上品な風味を引き立てている点が、他地域のおでんとは明らかに異なる特徴だと感じています。
金沢おでんの老舗店ガイド
菊一:カニ面発祥の老舗
金沢でもっとも歴史あるおでん屋さん、「菊一」。実はこちらのお店、金沢おでんの顔ともいえる「カニ面」の名付け親です。創業は昭和9年、その歴史は約90年 「金沢おでん」おすすめ人気店5選|食べるなら老舗のココ!|ブログ|【公式】石川県の観光/旅行サイト「ほっと石川旅ねっと」を誇ります。
創業から継ぎ足し続けている出汁は、大野醤油ベースのカツオ昆布ダシ。関東風、関西風ともちがう「金沢風」の味が楽しめます。
赤玉本店:醤油を使わない秘伝の出汁
昭和2年創業の「金澤おでん 赤玉本店」。醬油を使わない代々受け継がれる秘伝の出汁は、素材の魅力をひきたてる上品な味わいです。
おでんの出汁は、昆布出汁と煮干し出汁をあわせたもので、醤油は使っていないそう。素材の魅力を引き立てる、上品な味わいが人気の理由です。
あまつぼ:透き通る出汁の美学
昆布とカツオ、塩、酒のみで作られた、透き通る出汁が魅力のお店。シンプルゆえにごまかしのきかない出汁に具材のうまみが加わり、訪れた人を魅了しています。
金沢おでんの楽しみ方とマナー
これまでの経験では、金沢おでんの通な楽しみ方にはちょっとしたコツがあります。
いきなり「カニ面」を注文してはいけません。
先ず、『車麩』からお願いいたしましょう!!この車麩が一番、金沢おでんの命である出汁を吸って先ず旨味を感じれる一品となります。
価格帯と予算の目安
金沢おでんの価格は比較的リーズナブルで、観光客にも優しい設定になっています。
手前から時計回りに「すじ」2本350円、「ばい貝」時価(700~900円)、「ふかし」300円などという価格設定が一般的です。130~600円(税抜 時節で変動)が標準的な価格帯で、「香箱カニ面」(1,980円)がプレミアム価格となります。
通常2〜3品注文すると1,000円程度、カニ面を含めても3,000円程度で十分に金沢おでんを堪能できます。
季節ごとの楽しみ方
おでんといえば冬の食べ物というイメージでしたが、夏は旬の加賀野菜を使用した冷たいおでんも人気です。
毎月22日は「金沢市民おでんの日」に定められていることからも、金沢市民にとっておでんが年中行事であることがわかります。
11月のカニ漁解禁直後に訪れた際、カニ面の仕込み風景を見る機会がありました。一つ一つ手作業で香箱ガニを捌き、甲羅に身や内子を丁寧に詰める職人技は圧巻でした。この手間を考えると、価格の妥当性も理解できます。
アクセスと観光ルート
金沢おでんの老舗は、金沢市の中心部に集中していてアクセスも良好です。主要エリアは以下の通りです。
片町・香林坊エリア
- 菊一、赤玉本店、高砂などの老舗が集中
- 金沢の繁華街で夜の散策にも最適
近江町市場エリア
- いっぷくや、あまつぼなど
- 「金沢の台所」として知られる近江町市場には、新鮮な魚介類や地元野菜が豊富
金沢駅エリア
- 黒百合、おでん山さんなど
- 新幹線やバスの乗車前、乗車後の時間を利用して是非金沢の味を是非お楽しみください
よくある質問(FAQ)
Q1: カニ面はいつ食べられますか?
食べられるのは11月初旬から12月29日頃までの期間限定です。ただし、期間中でも天候によって漁が行われないとメニューに並ばないこともあるため、事前確認をおすすめします。
Q2: 金沢おでんは夏でも食べられますか?
はい。金沢おでんの定義の一つが「1年を通して食べられること」で、夏は冷たいおでんや夏野菜を使った季節限定メニューも楽しめます。
Q3: 一人でも気軽に入れますか?
もちろんです。多くの店がカウンター席を中心とした構造で、一人客も多く訪れます。地元の常連客との会話も金沢おでんの楽しみの一つです。
Q4: 予算はどの程度必要ですか?
通常の具材なら1品130〜600円程度で、2〜3品注文すれば1,000円程度です。カニ面を含めても3,000円程度で十分楽しめます。
Q5: 観光客におすすめの店はありますか?
金沢駅の黒百合は観光客に人気で、老舗の菊一や赤玉本店は金沢おでんの歴史を感じられます。アクセスの良さを重視するなら駅近くの店、雰囲気を重視するなら片町の老舗がおすすめです。
まとめ:金沢おでんで味わう北陸の食文化
金沢おでんは、単なる郷土料理を超えて、この地域の食文化と季節感を表現する芸術作品のような存在です。
透明で黄金色に輝く出汁に浮かぶ車麩、源助大根、そして冬限定のカニ面は、金沢の四季と食材の豊かさを物語っています。
これまでの取り組みで実感しているのは、金沢おでんの魅力は味だけでなく、店主との会話、常連客との交流、そして金沢の街並みと一体となった総合的な体験にあることです。
石川の食文化の豊かさを気取らず・飾らず、心に染み入る美味しさで満喫できる「金沢おでん」を、ぜひ金沢を訪れた際には体験してみてください。きっと、おでんに対する概念が変わるはずです。






